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Meu
2022年10月4日。火曜は、仕事終わりに陶芸スタジオに行く日。
3時間ほど作業し、片付けが終わる頃、「はるかちゃん、ビール冷えてるよー」と声をかけてくれる愉快な先生たち。
地下鉄の終電ギリギリまで呑んで食べて、ほろ酔いで家に帰るのが火曜日のお決まりコースだが、この日はダービー戦(ミラノの2つのサッカーチームの試合)か何かがあって、私の乗り換え駅「Duomo」には停車してくれない。そういう時は、少し時間が掛かるが、バスで帰る。
深夜1時近くにも関わらず、サッカーの勝利を祝ってクラクションを鳴らしながら車が行き交っている。
最寄りのバス停から家までは徒歩10分くらい。
歩道を歩いていると、謎の小動物が車通りの多い道を猛スピードで渡ってきて、私の目の前で足をとめた。
変な走り方だったので怪我した子猫かと思い、しゃがんで近づいてみると、なんとウサギだった。
運よく車を避けて渡れたようだが、全速力で走ったからか、呼吸が浅かった。
「大丈夫?」とそっと背中を撫でてみると、逃げないどころか「そこじゃないの、ここを撫でて」と頭をぐっと出してくる。
見るからに野生のウサギではないし、とりあえず保護しようと決めた。
しばらく頭を撫でて様子を見て、落ち着いた頃にやさしく持ち上げ、抱っこしてみた。
怯えることも抵抗することもなく、おとなしく私に体を預けて、じっとしている。
空気のように軽くてふわふわな、小さな未知の生物、ウサギを抱えて家までの道を歩く。
若者に人気のバーやレストランが多いエリアで、賑わう店前を通ると、何人かはこの奇妙な光景に気づき「マンマミーア」の声も。
淡々と歩きながらも、頭の中はフル回転。
家には猫のセウがいる。喧嘩したらどうしよう。
ウサギは何を食べるんだろう。冷蔵庫に何かあったかな。
犬猫のようにチップが入っていたら飼い主は見つかると思うけど、見つからなかったらどうしよう。
でも今はとにかく、この子を無事に、安全なところに連れて行くことに集中しなくては。
家に着いて、ドアを閉めて、ウサギをソファーの上に。
セウは驚いてはいたが、威嚇の「シャー」もなく、ソファーの下から真っ黒な目でウサギを凝視している。
ウサギが一番リラックスした様子で、堂々と私の手からルッコラを食べ、小鉢の水を飲み、膝の上に登ってきたり、猫に近づいてみたり。
猫とウサギと人間、おとぎ話のような組み合わせの深夜のひと時。
とりあえず喧嘩の心配はなさそうだったので、私もソファーに座り、まずは獣医さん、ミラノの友人グループ、ウサギを飼ったことがあるお友達にメッセージを送ってから、ウサギのリサーチ。牧草を食べるらしい。明日買ってこよう。
ソファーの上を自分のテリトリーとして認識した様で、猫が登って来ようとすると追い出し、ソファーでくつろいている。
セウと一緒にするのは、念のため健康診断の後にしよう。
とりあえず今晩を乗り切るために、唯一完全な隔離が可能なバスルームをウサギ小屋として整える。
翌日、獣医さんに診てもらったが、ウサギにはチップを入れないらしい。そこからの飼い主探しの線は無くなった。
性別は女の子で、推定2~3歳。「Testa di Leone(ライオンラビット)」というペットのウサギの一種で、基本的に外で冬は越せないそうだ。
寄生虫などは見つからず、健康体とのこと。とりあえず一安心。
獣医さんにも同じ柄のウサギを飼っている・飼っていた人を知っているかと聞いてみたが、思い当たる人はいないとのこと。ライオンラビット自体は一般的だが、白黒のパンダ柄はそこそこ珍しいようだ。
ウサギは狭いテリトリーの中で生活するので、見つけた場所の近隣エリアに貼り紙を出したり、その地区の他の獣医さんに聞いてみて、もし飼い主が見つからない様であれば、捨てられたと考えて良い、と。
ウサギは音も出さないし小さいしかわいいし、飼いやすいと思って飼い始めて、結果断念して手放す飼い主も少なくないとのこと。
早速貼り紙を作り、近くの獣医さんやカフェ、ペット用品店などに貼って回った。ミラノの友人たちにも情報拡散に協力してもらった。が、飼い主から連絡が来ることは無かった。
翌年は卯年だし、何だか縁起が良い気がする。
初めましてな感じがしない、不思議な感覚もある。誰かの生まれ変わりで、私に会いに来てくれたのだろうか、などと考えたりもする。
とんでもなく肝が据わっていて、先住猫のセウとも何だかんだで上手くやっていけそうだし、何より家での安全な生活を楽しんでいる様なので、私は決心した。
青い目が美しいウサギの女の子「メウ」は、我が家の一員となった。