
過去のインタビュー記事が素敵な本に掲載された。
「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン·インタビューズ」は、インテリア、家具、建築などの領域で活躍する、世界各国のデザイナー100組のインタビュー集。
2013年、初めて訪れたミラノ、奇跡的に実現させることができたグループ展の会場内カフェスペースでのインタビューは、月刊「商店建築」の「デザインの新定義」という連載のためのものであった。
インタビュアーは、土田貴宏さん。
本書はその連載をもとに、2000年以降のデザインを俯瞰するテキストを追加して構成されたもの。
掲載されたのは、2011-12年にスウェーデンで制作した「リッラ·アトリエン」家具シリーズ。
私が家具デザインと木工家具制作を学んだ、スウェーデンの Öland(エーランド)にある Capellagården(カペラゴーデン)という学校では、3年目の最後の一年間を掛けて「ジゼル」と呼ばれる職人試験を受けるか、卒業制作として自身のプロジェクトを企画し、設計·制作するか、どちらかを選択する。
職人試験を受けたい気持ちも大いにあったが、その場合1年のほぼ全てをかけ、自分のスキル全てを注ぐ家具1点を制作することになる。
悩んだ挙句、私はその職人試験は受けず、最高の木工制作環境を自由に使える1年間を有効に活用して家具シリーズをデザイン·制作し、未来につなげようと決心した。
テーマは「リッラ·アトリエン」、スウェーデン語で「小さなアトリエ」を意味する。
学校の敷地内に、普段は使われていない「リッラ·アトリエン」という質素なアトリエ小屋があり、ずっと気になる存在だった。
夏の間だけ、アーティスト·イン·レジデンスのアトリエ施設として使用されていて、特別な設備は一切なく、水道すら通っていない小さな空間だが、やわらかい光と不思議なエネルギーに満ちている。
私は、この小屋にピッタリの家具シリーズを制作することにした。
小屋の歴史を調べると、元々は「William Nording (1884-1956)」という画家のアトリエだったことが分かった。
当時、スウェーデンのアーティストは、やわらかい特別な光を求め、南フランスなどに自由に行き来していたそうだが、戦争の影響でそれが叶わなくなった。William Nording は、スウェーデン国内で似たような光が得られる環境を探し、Öland(エーランド)島に行き着いた。そこに移住し、アトリエを構えて制作活動を始めると、その噂を聞きつけたアーティストたちが、特に夏の間に制作のため訪れるようになり、彼らを受け入れるために William と妻の Maja Uddenberg-Nording は「Bo pensionat」という宿泊施設をオープンした。
今日 Öland はアーティストの島としてよく知られるが、William Nording はそのきっかけを作った人物だったということが分かり、彼のアトリエであった「リッラ·アトリエン」が、より愛おしい存在になった。
私は、William Nording が制作活動をしていた風景を思い描き、そこにあってほしい家具シリーズを制作することにした。
彼のやさしい柔らかい色彩を邪魔しない、家具の質感と色の設計。全て一人で移動できる物理的な軽さと、小さなスペースを圧迫しない視覚的な軽さ。創作環境にふさわしいカジュアルな雰囲気などをコンセプトとしてシリーズ全体をデザインした。
卒業後にストックホルム家具見本市で展示するということは、計画段階から考えていたことではあったが、決して簡単な道のりではなかった。
本当に多くのあたたかいご支援とご縁により何とか実現できたこと、これに関してもいつか何かの機会でお伝えできればと思う。
ストックホルムの展示は2月だったが、そこでお声掛けいただき、4月のミラノサローネでの展示が実現した。その奇跡のストーリーも、また別の機会でご紹介したい。
ストックホルムの展示ブースに来てくださった、デザイン関係のお仕事されている日本人の方とご連絡先を交換させて頂いた。どうやらその方が、私のことを商店建築さんにご紹介下さったらしく、このインタビューへと繋がった。
インタビュアーの土田さんもミラノサローネにいらっしゃるとのことで、せっかくなのでインタビューはミラノで、ということに。
初めてのインタビューだったが、土田さんの「引き出す力」のおかげで、自然体で想いを伝えられたことをよく覚えている。
そこでの会話は、「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン·インタビューズ」の中に。
この様にして奇跡的に実現した商店建築のインタビューは、私にとって大切な宝物となったが、まさか8年越しで本として出版されるとは。
その年月の間に、家具シリーズの中から一点はデンマークの家具メーカーから商品化されたり、そのシリーズのスピンオフとしてデザインしてほしいと依頼を受けた家具数種が、エストニアのメーカーから商品化されたりという展開もあったのだが、本書の中では商品化された家具の画像も掲載して頂いた。
出版社もとてもユニークで、建築家/ライターの浅子佳英さんが創業した建築設計事務所兼出版社「PRINT & BUILD」の記念すべき第一冊目として出版された。
さらに、編集とブックデザインは、日本で建築を、チューリッヒでブックデザインを学ばれた 斧澤未知子さんが手掛け、本としての仕上がりも素晴らしい。
掲載されている他の方の記事もとても興味深く、自分もその100組の内の一人として本書に取り上げて頂いたことをとても光栄に思っている。
これからもさまざまな活動を通して研究を重ね、精進していこうと決意を新たにした。